りゅうおうのおしごと! 第4巻の清滝桂香の勝利が本当に切ない

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ラノベの「りゅうおうのおしごと!」を軽い暇つぶしのつもりで読み始めたら、思ったよりも引き込まれてしまって既刊の全 4 巻を一気に読んでしまいました。

おかげで暇つぶしどころか休日まるつぶしです。

「りゅうおうのおしごと!」という小説は、才能のあふれる天才棋士で竜王のタイトルを持つ主人公九頭竜八一 とその弟子である二人の同名の天才少女棋士「あい」が、将棋界に旋風を巻き起こす話です。

天才棋士たちが、異能ともいえるその才能を極限まで研ぎ澄ませて、盤上盤外を問わず死力を尽くして戦う姿は手に汗握りますし、その棋譜は正に芸術的です。

一方で、主人公の年上の妹弟子の清滝桂香は主人公に才能に恵まれていません。見せ場なしに負けることも多く、兄弟子や姉弟子の天才的な感覚について行くこともできません。

しかしそれでも、この巻では彼女は他の天才たちに負けない熱い輝きの将棋を見せます。

りゅうおうのおしごと! 第 4 巻扉絵より清滝桂香

りゅうおうのおしごと! 第 4 巻扉絵の一部。挿絵が一枚もないけど個人的に MVP な清滝桂香

清滝桂香は凡人である

清滝桂香は才能もそれほどではありませんし、勝負強くもありません。

竜王のタイトルを持つ主人公より 9 歳年上の 25 歳で、女流棋士 (プロ棋士のこと) になる年齢制限まであと 1 年ちょっとしかありません。ちなみに主人公の愛弟子たちは 9 歳で同等以上の実力を見せており、才能の差が年齢の差として表現されています。

第 3 巻では桂香は成績不振で降級直前に陥り、4 連戦の最初の 2 戦で 2 連勝しなければ女流棋士になるのは絶望的という状況に追い込まれました。

そこで、年下の姉弟子に土下座までして特訓し、連勝できなければ将棋を引退すると師匠である父親に宣言して背水の陣で臨み、ついには棋戦本番では覚醒して見事な指し回しを見せます。

しかし、それでも 4 連戦の最初の 2 戦を連勝で飾ることに失敗し、研修会 (プロ棋士への登竜門) での女流棋士への昇進が絶望的になってしまうのでした。覚醒したのだから、4 連戦後半の 2 戦は連勝してくれるだろうと期待していると、1 勝 1 敗とこれまた微妙な成績です。

連勝できなければ引退すると大見得を切っていたにもかかわらず、4 連戦の結果、結局女流棋士への道は大きく遠のいてしまったことになります。しかし、ここで桂香は将棋の夢を諦めきれず、師匠である父親の前で引退を撤回するのでした。

もう、なんというか傍から見ればみっともないことこの上ありませんね。

ただ実は、勝負の世界ではみっともないことができるかも含めて実力、というのが「りゅうおうのおしごと!」で繰り返されるテーマでもあったりもします。

桂香はついに大きく成長への第一歩を踏み出した、というのが前巻までのあらすじになります。

マイナビ女子オープン出場

「りゅうおうのおしごと!」 第 4 巻では桂香は、主人公の天才的な愛弟子たち 2 人と一緒に最大の女流公式棋戦であるマイナビ女子オープンに参加します。

マイナビ女子オープンでは、本戦の 1 回戦で勝利できると一足飛びに女流棋士 (プロ棋士のこと) になれるという特典があります。奨励会での昇進が絶望的になってしまい、年齢制限が間近の桂香にとって、この棋戦にかけける意気込みはいやが応にも高まるというものです。

このマイナビ女子オープンは本戦、予選 (一斉予選)、予備予選 (チャレンジ・マッチ) の 3 つのトーナメント戦で構成されており、アマチュアである桂香と主人公の愛弟子たちは予備予選であるチャレンジ・マッチから参加することになります。

しかし、主人公の愛弟子が天才ぶりを発揮してチャレンジ・マッチの初戦をあっさり勝ち抜いていく中、桂香は初戦であっさり敗北してしまうのでした。

本当に期待を裏切りませんね。

マイナビ女子オープン本戦出場の難しさ

ただ女流 3 級にもなっていないアマチュアが、マイナビ女子オープンで本戦に出場して 1 勝を上げるというのは、実際のところとても大変なようです。

現実における最近のマイナビ女子オープンのアマチュアの本戦の成績は次のようになっています。

  • 第10 期、アマが 1 人本戦出場、全員 1 回戦敗退
  • 第 9 期、アマの本戦出場者なし
  • 第 8 期、アマが 2 人本戦出場、全員 1 回戦敗退
  • 第 7 期、アマが 3 人本戦出場、全員 1 回戦敗退
  • 第 6 期、アマが 1 人本戦出場、全員 1 回戦敗退
  • 第 5 期、アマが 2 人本戦出場、1 人は 1 回戦敗退で 1 人は優勝
  • 第 4 期、アマが 1 人本戦出場、全員 1 回戦敗退

マイナビ女子オープンにアマチュアが参加できるようになった第 4 期からの 7 期において、本戦で 1 勝以上を挙げられたのは第 5 期の長谷川優貴しかいません。ただ、このときはなんと本戦トーナメントで優勝を飾っており、トーナメント表を見ると参加者としては「長谷川優貴アマ」なのに優勝者としては「長谷川優貴女流二段」になっていたりします。

ともあれマイナビ女子オープンの本戦出場者のうちアマは一人二人で、その中でも本戦で勝ち星を挙げるのは極めて困難というのが近年の傾向でしょうか。

敗者復活戦

そんな中、われらが清滝桂香は予備予選の敗者復活戦を勝ち上がり、予選出場の最後の一枠を巡る決勝戦にコマを進めます。

この決勝戦までに 5 連勝しているはずの桂香ですが、初戦の敗北を良いところなしに描かれた後、その後の棋戦の内容は一行たりとも記述されません。

もちろん、その隣では主人公の愛弟子たちが予備予選を余裕の全勝で突破している姿が華麗に描かれているわけです。ああ不憫。

しかし、ついに出場者決勝トーナメントの決勝戦では桂香に再び出番がまわってきます。しかしそこで描かれる決勝戦の内容はというと、投了寸前のところで、なんと対戦相手がすでに成った竜王のコマをさらにひっくり返すというチョンボでの反則勝ちを拾うというもの。

これ以上なく格好悪い勝利で予選の出場権をゲットすることになります。ああ不憫。

桂香の半歩先を行く者

マイナビ女子オープンの予選 (一斉予選) は、4 人一組のトーナメントになっており、2 連勝して優勝すれば本戦に出場できます。

桂香は一斉予選の初戦を、持将棋 (引き分け) にもつれこんだ後の指し直しで勝利し、本戦出場がかかる決勝にコマを進めます。もちろん持将棋であること以外、棋戦の内容は一行も書かれません。

ともあれ桂香の決勝の対戦相手は、旧友の香酔千 (こうずい せん) 女流 3 級。

女流 3 級は女流棋士 (プロ棋士) には違いないのですが、一定期間内に規定の勝利数を上げて 2 級に昇級しないと降級してアマに逆戻りという女流棋士の仮免許みたいな地位です。以前はそんな訳で女流 3 級を女流棋士仮会員と呼んでいたようです。

規定の勝利数とは以下のいずれかです。

  • 1 年で参加公式棋戦と同数の勝ち星
  • 2 年で参加公式棋戦の 4 分の 3 以上の勝ち星

ざっと計算してみますと、参加公式棋戦が全部トーナメントだとすると、同数の勝ち星を得るには勝率が約 5 割以上、 4 分の 3 以上の勝ち星を得るには勝率が約 45 パーセント程度必要です。1 回戦で負けることが多いので、時には 2 回戦を勝ち抜く必要があり、意外と高い勝率が求められていますね。

女流 3 級から女流 2 級へ昇級するのは実はもう一つ方法があって、1 級への昇級条件を満たすことです。この場合、勝利数が不足していても、女流 2 級へ昇進できます。

1 級の昇格条件とは一言で言うと公式棋戦で優秀な成績を収めることで、マイナビ女子オープンの場合、本戦出場がその条件になります。

桂香の決勝の対戦相手の香酔千は、桂香がまだ到達できていない女流 3 級に昇級してます。しかし、すでに昇級から 2 年近く経過しているにもかかわらず、勝ち星に恵まれていなくて降級の危機に瀕しています。また年齢的にも、ここで降級してしまうと、年齢制限に引っかかって二度と女流棋士にはなれません。

そのため香酔千にとっても、女流棋士を続けたければ、マイナビ女子オープンで本戦に出場することが必須条件という状況になっているわけです。

つまり、比較すると、桂香は女流プロではなく、千は女流プロですが、このマイナビ女子オープンで本戦出場を果たせなければ、女流プロとして生きて行く道が絶たれるという立場は全く同じです。

清滝桂香にとって香酔千はまさに「半歩先を進んだ自分自身」といえるでしょう。

一斉予選決勝

決勝はそんなほとんど鏡あわせの二人の対決となったわけで、実力伯仲の二人が熱戦を繰り広げると思いきや、なんと桂香の一方的な勝勢の展開になります。

桂香は泣きながら一方的な将棋を指すのでした。

それは目の前の相手の夢を折ることだから。

目の前の相手は少し未来の自分自身だから。

桂香は泣きながらも勝負手を次々に放ちます。

それは旧友に自分自身の将棋を指して欲しいから。

目の前の相手は少し未来の自分自身だから。

しかし、香酔千は最後の最後まで自分の将棋を指せませんでした。

最後まで自分の指した手を悔いていました。

その結果、ただただ桂香のサンドバッグになってしまったのです。

まとめ

桂香は見事に本戦出場を決めました。それは当然、旧友の女流棋士への夢を自らの手で絶ちきったということでもあります。

対戦後に桂香は、香酔千から女流棋士になっても辛かっただけだったと告白されます。

そこで桂香は答えるのでした。

「力が足りなくても、先にあるのが地獄でも・・・・・・ほんの少しでも可能性がある限り、最後の最後まで諦めずに夢を追いかけたい。千ちゃんだってそう思ってたでしょ?」

そう「半歩先を進んだ自分」を超えて「一歩進んだ自分」を目指す。

それが桂香の答えだったわけです。

桂香もあと本戦で 1 勝できれば、念願の女流 3 級です。

りゅうのおしごと! 第 5 巻も楽しみですね。

参考

りゅうおうのおしごと! 第4巻の清滝桂香の勝利が本当に切ない」への1件のフィードバック

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