かけ算の順序はむやみに変えたらいけないし 3.9 + 5.1 は 9.0 ではなくて 9 である

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小学生の算数のテストでかけ算の順序を変えたらペケにされたとか、\(3.9+5.1 = 9.0\) と書いたら \(.0\) は不要として減点されたということがネットで問題視されて、中には子供に対する虐待だとまで言っている人がいます。

しかし、個人的には、教育的見地から見ると、どちらも妥当に思えます。なぜなら小学校の算数とは、授業で教えられた範囲で解くことをトレーニングする場所だからです。

テストは相手が理解しているかを試している

「100 を 3回足すことを \(100 \times 3\) と書くこととします。
では 200 を 5 回足すのはどのように書いたらいいでしょうか」
\[
5 \times 200
\]
もし、こんな解答を見たら、私は日本語が読めてないと判断します。

「いや、そんなことはない、正しいから問題ない」という人がいるかもしれませんね。

では、次はどうでしょうか。

「400 円を 4 人で分けることを \(400 \div 4\) と書くこととします。
では 800 円を 2 人で分けることはどのように書くでしょうか」
\[
2 \div 800
\]
もし、こんな解答を見たら今度は誰もがペケをつけると思います。

でも、まともに考えれば、当の本人の日本語の理解度はどちらも同じぐらいと考えるべきでしょう。つまり両方とも適当に数字と記号を並べただけです。

定義を理解する

教える側の観点からすると、かけ算が交換できることを許すと、本当に理解してなくて間違えているのか、交換できることを知っていてわざと逆順に書いているのかは立式だけでは判断できないのです。

典型的には「ずつ」という単語があったら、そこから数字を適当に2つ選んでかけ算記号と並べるという生徒がいることは容易に想像できます。また、実際かけ算の授業だったらそれだけで高得点を取ることも容易です。

かけ算の交換を禁じることで、このまともに文章を理解していない生徒を容易に抽出できるようになるのです。

誰かに教えてもらったのだから問題ない?

いや、\(a \times b = b \times a\) は直感的に理解しているから問題ない、子供の数字に対する直感を大事にすべきだ、という人もいるかもしれません。

ただ、そもそも、本当にその直感が正しいって、誰が保証しているのでしょうか。
ペケにするぐらいだから、かけ算の交換則は授業では教えてないのですよね。

本当に直感で正解を当てられるぐらいなら、算数の点数なんてみんな満点ですよね。

では、隣の家のさっちゃんが教えてくれたから正しい、はどうでしょうか。
でも当のさっちゃんは、いつも算数のテストで100点が取れているのでしょうか。
そんな子の言うことを鵜呑みにしていいのですか?

お父さんが教えてくれたから? Google 先生が教えてくれたから? Wikipedia 先生が教えてくれたから? 中学校の教科書に書いてあったから?

小学校の算数における正しさとは

たとえば小学生に分数を教えていると考えましょう。

次の分数のかけ算の問題を考えてみます。
\[
\frac{2}{3} \div \frac{5}{2} = \frac{2}{3} \times \frac{2}{5} = \frac{4}{15}
\]

この問題に対して「どうして分数の割り算は分子と分母を逆にした分数とのかけ算になるの」というのはよくある質問です。

これは実は小学校の算数の範囲で証明ができます。
\[\begin{align}
\frac{2}{3} \div \frac{5}{2}
&= \frac{2}{3} \times 1 \div \frac{5}{2}\\
&= \frac{2}{3} \times \frac{2}{5} \times \frac{5}{2} \div \frac{5}{2} \qquad (なぜなら \frac{2}{5} \times \frac{5}{2} = 1) \\
&= \frac{2}{3} \times \frac{2}{5} \times 1 \qquad (なぜなら \frac{5}{2} \div \frac{5}{2} = 1)\\
&= \frac{2}{3} \times \frac{2}{5}
\end{align}\]

とはいえ、こんな証明をされても、一部の変態を除けばキョトンとされるのがオチでしょう。

「授業で教えた方法だから正しいの」

というのは小学生に対しては不誠実な回答ではないと思います。

小学校の算数における誤りとは

次に小学生に分数の足し算を教えていると考えましょう。
\[
\frac{2}{3} + \frac{1}{2} = \frac{2+1}{3+2} = \frac{3}{5}
\]
という回答をしたら、みんなペケをつけると思います。

では「なんで間違いなの」と聞かれたらどう答えたらいいでしょうか。いろいろ説明がありえますが、これも

「授業で教えた方法とは違うから」

というのも、やはり小学生に対しては不誠実な回答ではないと私は思います。

つまり「授業で教えていない方法は誤りである」という大方針を失うと、そもそも小学生に算数など教えられません。

また、それは将来的にも与えられた公理もしくは条件下で命題を証明するという能力の基礎になるので、一概に否定できるものでもありません。

でも正しいものは正しい

とはいえ正しい定理を使えないのは許せない、と考えている人も多いでしょう。
でも小学生は正しい定理を使ってはいけないことがあるのです。

中学生以上なら \(a = b\) かつ \(c = b\) なら \(a = c\) が正しいと思っていると思います。

では次の2つの割り算をみてください。
\[\begin{gather}
7 \div 3 = 2 あまり 1\\
5 \div 2 = 2 あまり 1
\end{gather}\]

では次の式は正しいのでしょうか。
\[\begin{gather}
7 \div 3 = 5 \div 2
\end{gather}\]

もちろん正しくありません。

ではなぜ正しくないのでしょうか。
「\(a = b\) かつ \(c = b\) なら \(a = c\) なんて授業で言ってないよね」というのはもっとも簡単な説明ですよね。

3.9 + 5.1 = 9.0 は正しいか

\(3.9 + 5.1 = 9.0\) と解答したら 9.0 ではなくて 9 だとして減点になったという記事も話題を呼びました。

中には「9.0 は有効桁数を表しているのだから正しい」という意見までありました。

念のため言っておくと、9.0 で有効桁数 2 桁といった場合、最後の桁は変わる可能性がある、というのが有効桁数の定義です。算数の問題で最後の桁の値が変わったら大問題ですので、有効桁数を持ち出すのはセンスがないです。

まあ、こんな揚げ足取りはともかくとして、9.0 が正しいと言っている人は 9.000 と書いても減点する必要がないと思っているのでしょうか。

まあ、これぐらいなら OK という人もいるかもしれません。

では、\(0.9 × 10^1\) はどうでしょうか? 90/10 は?

数の表現はいくらでもありえますが、小学校の算数では、最後の桁の 0 は省略するというルールがあり、そのルールに則らない場合に減点するのは無理からぬことです。

たとえば小学生の場合、分数計算は帯分数で書くことが求められることがあります。
\[
\frac{2}{3} + \frac{1}{2} = 1\frac{1}{6}
\]
ここで仮分数の \(\frac{7}{6}\) と解答して、値が同じで中学校以降ではこれが正解だと言っても、帯分数で解答を求められているのだから不正解になるのは仕方がないところです。

この考え方は中学、高校でも同じです。有理化を求められているのに
\[
\frac{1}{\sqrt{a + b}}
\]
と解答していたら減点です。
\[
\frac{\sqrt{a+b}}{a+b}
\]
と解答する必要があります。数式として汚ないとか正しいとかは関係ありません。

また、複素数で分母を実数にするように求められれば、
\[
\frac{1} {1 + i}
\]
ではなく、次のように解答する必要があります。
\[
\frac{1 – i} {2}
\]

ここで見たように、9.0 ではなくて、 9 と答える必要があるのは、それは「小学校ではそういうルールだから」で本当は十分なのです。
必然性とか数学的な正しさとは関係ありません。

相手がそういう解答を求めているのに、そうでない解答をするのが減点対象になるのは必然です。

まとめ

算数だろうが数学だろうが、ローカルなルールに従って、数字や数式をいじくりまわす学問です。

そのため、小学校で「授業で教えていないことは使ってはいけない」というのはそこまで理不尽ではない範囲の、数学的な思考の訓練なのです。逆にこの方針なしでは、数式の操作もままならず証明もまともに扱えない小学校の算数では、何が正解で何が不正解か、誰にも答えられないルール無用のデスマッチになってしまいます。

一方で数式の操作ルールがはっきりと定義され、曲がりなりにも証明がベースになる中学校以降の数学は、解答に際してあらゆる技法を駆使していいとも思います。正しい手順を追えば原理的には誰でも正しさが確認できますから。

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参考

かけ算の順序はむやみに変えたらいけないし 3.9 + 5.1 は 9.0 ではなくて 9 である」への11件のフィードバック

  1. ホントにそうだと思います。
    数字っていうのは言葉としての側面もあるわけだから、
    相手に正確に伝えるには共通のルールにのっとるのが最善ですよね。
    ネット上には有効数字だとか社会に出たらだとか、
    筋違いなことを言っている人が多くて驚きましたが…

  2. 実際の掛け算の文章問題は(1)式のようには書かれていません。ウサギ3羽の耳の数を問われたときは「1羽目2本+2羽目2本+3羽目2本」とも「右耳3本+左耳3本」とも考えることができます。
    「ずつ」という単語があったら、その「ずつ」が付いた数を先に書いて、その後にもう一方の数を書くだけのことですから、文章を理解していない生徒を抽出できません。回答に使わない数字を文中に混ぜる方がいいでしょう。
    かけ算の交換則は小学2年で教えます。指導要領で定められています。その上で、ペケにされているんです。
    質問の内容によっては「授業で教えた方法だから」でいいかもしれませんが、いつもそれで済まそうとするなら不誠実でしょう。どうして分数の割り算は分子と分母を逆にした分数とのかけ算になるのか、小学生だった頃の僕でも図を使って同級生に説明し、理解してもらえましたよ。分数の足し算も実物で試せば左辺と右辺が一致しないことは明らかです。
    ローカルルールを設けること自体は問題ありません。しかし、その方法で目的が達成できるのか、他の学習内容との齟齬が生じないかなど、個々のルールの妥当性は熟慮する必要があります。

  3. 【ペケにするぐらいだから、かけ算の交換則は授業では教えてないのですよね。】

    いいえ、交換法則は小学校2年生で教えます。一方、「掛け算の順序が逆でバツ」は高学年でもあります。

    【典型的には「ずつ」という単語があったら、そこから数字を適当に2つ選んでかけ算記号と並べるという生徒がいることは容易に想像できます。また、実際かけ算の授業だったらそれだけで高得点を取ることも容易です。かけ算の交換を禁じることで、このまともに文章を理解していない生徒を容易に抽出できるようになるのです。】

    いいえ、「ずつが付いた数を前」「答えの単位・助数詞とおなじものを前に」というように、文章を理解していないでも、「正しい順序」にすることができます。

    また掛け算の順序を「逆」にしていた児童の全員が問題文の内容を正しく理解していたという報告があります。

  4. 【では「なんで間違いなの」と聞かれたらどう答えたらいいでしょうか。いろいろ説明がありえますが、これも「授業で教えた方法とは違うから」というのも、やはり小学生に対しては不誠実な回答ではないと私は思います。】

    不適当な回答です。「2/3mと1/2mのひもをつないだらどうなるか?」などと言うべきでしょう。

  5. 「ペケにするぐらいだから、かけ算の交換則は授業では教えてないのですよね。」ということは、バツにするのは反対、ということなのかな?

    「ペケにするなら、交換法則は教えていない」
    対偶は「交換法則を教えているならペケにしない。」

    実際は、「交換法則を教えながらペケにしている」わけで、おかしいですよね?

  6. 2枚の1000円の金券もらった場合のレジ打ちは2×1000て打ちますし、海外では日本とかけ算の順番が逆だったりします。
    子供の自由な発想を奪わないで欲しい。

  7. 批判的な意見で申し訳ありませんが…
    3.9+5.1=9.0というのが工学的には正しい回答で,9と書いたらダメです.これは,本文中にもある有効数字の考えから来ています.(センスがないとおっしゃられているが,どういう意味なのか不明です.)このため,9.000と書いてもダメです.これは,3.9や5.1という数字がそこまでの精度で測定されたものだから記載されている物で,そこには,許容差という物も入っているためです.つまり,3.9と記載されているのは,3.85~3.9499・・の範囲にあるという事です.そのため,9.0と記載すれば,8.95~9.0499・・を表すのに対して,9では8.5~9.499・・統範囲になってしまい,許容差が大幅に変わってしまいます.このため,有効数字桁数を守る計算が要求されます.この例では,3.9,5.1とも有効数字が1桁ですので,答えも有効数字が1桁の9.0が正解となりそれ以外の記載方法を使うにしても,有効数字が明示的になっている物だけになります.(そのため90/10も不正解になります.)回答するのが小学生であるので,9でも正解だとは思いますが,工学的に正しい9.0が不正解になるのは理解できません.(全てにおいて答えは1つとは限らないし,逆にこれを通じて,こんな考えも世の中にあると話すなどして子供の世界を広げる授業をした方が良いと思いますがいかがでしょうか.)

    また,乗算は一般に(単位の数)×(いくつ分)と導入されると読みました.
    日本ではこの形ですが,英語圏では逆順(いくつ分)×(単位の数)で導入されます.確かに,順序が整っていれば,式をみることで,単位の数といくつ分かを見分けられるので教師にとっては便利ですよね.
    例えば,このような問題があったとします.
    5人に4個ずつみかんを配りました.全部で何個必要でしょうか.
    この問題をふたりの子供が以下の様に考えて答えを書きました.
    少年A
    お皿に4個ずつのっていて5枚お皿があるのだな,先生は1つあたりの数と,いくつ分かの順番で書けと仰っていたから・・・4×5=20 20個
    少年B
    5人に配るのだから,1個配るには5個ずつだな,それを4回配れば良いのだから,先生は1つあたりの数といくつ分かの順番で書けと仰っていたかか・・・5×4=20 20個
    さて,少年Bは不正解とするべきでしょうかという問題が生じます.これは,数の乗算が可換であるために発生しており,さいしょのほうにあった,除算は非可換であるため順序交換して考えることはできません.もし,単位の数をいくつ分かを理解したかどうか理解したいのであれば,絵を描かせるべきであって数式から読み取ろうとするのはおかしいと思います.また,この内容についても子供同士で議論させるなり,かけ算九九表から,可換性に気づかせることで広い世界を見せて上げることも可能かと思います.さらに英語圏では(いくつ分)×(単位の数)と習うなど,文化の違いなども感じられる教材になる可能性もあります.当然,演算の中には非可換なものもあり,それは除算や減算で確認できるのですから,かけ算については,逆になっていても全く問題ないと思います.

    本文中に気になる言葉があったので…
    “「授業で教えた方法だから正しいの」というのは小学生に対しては不誠実な回答ではないと思います。”
    “9.0 ではなくて、 9 と答える必要があるのは、それは「小学校ではそういうルールだから」で本当は十分なのです。必然性とか数学的な正しさとは関係ありません。”
    とおっしゃられていましたが,この部分は学校とは何のためにあるのでしょうかという存在意義なり目的なりにかかわる話しかと思います.
    そもそも学校という物は,将来役に立つ人間に育ってもらうために勉強するところであって,学校のルールを無批判に守るためのところでは決して無いと思います.そうであるならば,”授業で教えた”から正しいや”小学校ではそういうルールだから”というのはおかしいかと思います.どちらでも同じ答えなのに×を付けられた子供のどのくらいの割合が算数を嫌いになるのだろうかと思うと大変心が苦しいです.

  8. 「テストは相手が理解しているかを試している」
    これはどこがソースですか?もし自分の感情で仰っていませんか?
    指導要領に書かれていない自分の感情をを付け足しているような気がします

    この算数の計算順序問題の本質は
    ・式を組み立てることが最終目的なのではない
    ・答えを求められているので数学的に正しいかが重要
    ・答えが正解なのにバツがつけられていることが問題

    あと「正しいものは正しい」というのが小学生にとって不誠実極まりない発言かと思いました

  9. >3.9 + 5.1 は 9.0 ではなくて 9 である
    プログラミング的には9.0が正しいです。
    浮動小数点数の計算結果は整数になりません。

    今後プログラミング教育も始まりますし、
    3.9 + 5.1 は 9.0であるべきです。

  10. 3.9 + 5.1 = 9.0 ですよ?
    9 も 9.0000 も間違い

    7÷3=2あまり1
    5÷2=2あまり1
    典型的なペテンですね
    7÷3 = 2.33333333333
    5÷2 = 2.5
    よって 7÷3 ≠ 5÷2 であるで簡単で説明つく

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