イッカクのツノは高性能ソナー?

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「イッカク」という北極海に生息しているツノの長いクジラをご存知でしょうか。

いらすと屋さんのイッカクのイラスト。

いらすとやより、イッカクのイラスト。左巻のツノが特徴的です。

いらすとやにイッカクのイラストがあることもビックリですが、意外と特徴をよく捉えています。

イッカクの際だった特徴は、口元から2メートル以上の左巻の長いツノが生えていることです。このツノのため「海の一角獣 (ユニコーン)」と呼ばれることもよくあります。

ただ、イッカクの中でも 2 メートル以上の長いツノを持つのはオスだけです。メスも口の中に短いツノをはやしていますが、皮膚を突き破るほど長いツノを持っているのは少数になります。

なかなかにロマンがつまったツノですが、何の役に立つのでしょうか。

実はこのツノ、武器としてではなく、センサーとして使われているのです。

イッカクのツノは武器としては使えない

イッカクのツノをみると、突き刺さったら痛そうだな、という印象をもつかと思います。

しかし、イッカクはエサや捕食者を角で突き刺すことはしません。理由は単純です。彼らは突き刺しても腕がないので抜くことができないからです。

これはイッカクと同じようにから長いツノが伸びているカジキでも事情は同じです。カジキのツノは「突き刺して」使うものではなく、基本的にエサをツノで「斬って」捕食します。

カジキのイラスト。

いらすとやより、カジキのイラスト。イッカクと同様にツノがありますが、やはり突き刺したりはしません。

イッカクの場合、カジキとも異なり、ツノを斬るように使うこともないと言われています。オス同士のメスを巡る闘争でツノが使われることはあるようですが、その場合も水面上で長さ比べをしているだけで、基本的に傷つけ合ったりはしないそうです。

イッカクのツノはセンサーとして使われている

解剖学的には、イッカクのツノは左の犬歯が伸びて皮膚を突き破ったものです。

そのため、イッカクのツノの素材は歯と同じです。ただ人間の歯と大きな違いがあり、一番外側のエナメル質がありません。

虫歯でエナメル質に穴が空くと、冷たい水が染みて痛いと感じる知覚過敏と呼ばれる症状が出ますが、イッカクはエナメル質がありませんので、常時知覚過敏の状況と言えます。聞いているだけで歯が痛くなってくる状況ですね。

そんなこと言ってもツノの部分なんか、どうせ固まっていて神経とか埋まってしまっているのでしょう、と想像するところではあります。

しかし 2014 年の研究で、イッカクのツノの中は、人間と同様に先まで神経が張り巡らされていることが報告されました。そう、実は常時知覚過敏は正しかったのです。イッカクはこのツノに触れる水を、まるで舌先のように正確に感じているはずです。

この研究結果により、イッカクのツノは高性能センサーであり、触れているところが真水か海水かが判別したり、獲物のニオイを感じたりすることができる、という認識が広まりました。

生体ソナーによるエコーロケーション

ところで、クジラやイルカなど海に住む哺乳類の多くは超音波で獲物や捕食者の位置を探します。漁船の魚群探知機や潜水艦のソナーと同じ原理です。

この音波を使って対象物の位置を探ることを、エコーロケーション (反響定位) と呼びます。エコーロケーションを使う動物としては、暗闇でも獲物を捕まえるコウモリなんかが有名ですね。

イッカクもこの生体ソナーを備えています。イッカクのエコーロケーションでは大体1秒間に15回以下のクリック音と呼ばれる音を出して、相手の位置を探っていることが知られています。

イッカクの生体ソナーの指向性は世界一

最近の研究で、このイッカクの生体ソナーが、現在知られているどの動物のクリック音よりも指向性が高いことが判明しました。指向性とは、その向きのみに強く伝わり、それ以外の方向には伝わらない性質のことです。

生体ソナーの指向性の高さを表すクリック音の強さの半減角は、イッカクの場合 5 度でした。この値は小さければ小さいほど指向性が強いです。

これまで最も指向性の強いとされていたのはイッカクよりも小型のシロクジラでしたが、半減角は 6.5 度で、イッカクに比べると指向性が低いです。その他の小型のクジラの半減角は 8 度から 13 度、大型のマッコウクジラの場合も半減角は 8.3 度で、さらに指向性が低くなっています。

また、イッカクは潜水する際に連続的にクリック音を出すことで、高さ方向に生体ソナーで「スキャン」することが同時に報告されています。

まるでレーザーポインタの代わりにクリック音で海中を照らしているかのようです。

イッカクは海中生物の中で、最も洗練された高度な生体ソナーシステムを備えている、と言えるかと思います。

結局、イッカクのツノはソナーのアンテナとして使われているの?

イッカクが非常に高度なソナーシステムを支えるためには、反響してきた超音波を検出するのも高度な仕組み、特に幅の広いアンテナが必要なはずです。

たとえば、暗闇の中での狩猟に定評のあるフクロウは、幅の広い顔、左右上下非対称の耳を駆使して、音の発信位置を定めます。

最近、宇宙で使われている合成開口レーダーも、数機の衛星を編隊で飛ばすことで、実質的なアンテナの面積を大きくしています。

ならば、イッカクも反響音を幅広く補足するための生体組織を持っている可能性は十分にあります。そう、体の大きさに比して長すぎるように見えるツノとか。

本当に?

まあ、実際のところ、ツノで超音波を捉えている証拠はまだありません。

また、そんなに有用な器官なら、メスも持っていてしかるべきではあります。

ただ、群れで活動して狩りの際にサポートし合う体制があれば、オス・メスの全員が持つ必要はないかもしれません。どう考えても、あのツノを成長させて維持するのはコストが高いです。不要なコストは払いたくはないでしょう。

イッカクの群れの構成は同性だけという情報や、家族単位という情報があって、いろいろ錯綜しているところがあるのですが、おそらくメスだけの群れというのは少なくて、偵察役のオスがたいてい群れに一匹はいるのではないですかね。

なにせイッカクのツノにはロマンがつまっていますから。

参考

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