自壊したX線天文衛星ひとみはダークマターの存在の証拠を否定していた

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昨年は人工衛星の「ひとみ」が宇宙でロストしたという話題がニュースになりましたね。2010 年の金星探査機「あかつき」の軌道投入の失敗が思い起こされるいやな事件でした。

JAXAウェブサイトよりX線観測衛星「ひとみ」

JAXAウェブサイトよりX線観測衛星「ひとみ」

その「ひとみ」ですが、打ち上げてからすぐの、ならし運転のうちに壊れてしまったので、特に科学的な成果を残してないと思われていそうです。

でも、実は結構スゴい成果を上げています。なんと「ひとみ」はダークマターの存在の証拠を否定していたのというのです。

X 線天文衛星「ひとみ」とは

X 線天文衛星「ひとみ」は開発コード名で ASTRO-H とも呼ばれる天体観測用の人工衛星です。

普通の望遠鏡は目に見える光すなわち可視光で観測することが多いのですが、この人工衛星は X 線を観測するのに特化していました。

X 線を観測する人工衛星と言っても、別にそこまで珍しいモノではなく、これまで数々の X 線観測衛星が打ち上げられています。

  • 1999 年に NASA によって打ち上げられた「チャンドラ」
  • 同じく 1999 年に欧州宇宙機関 (ESA) によって打ち上げられた「XMM ニュートン」
  • 2005 年に日米の宇宙機関によって打ち上げられた「すざく (ASTRO-EII)」

というのも可視光だと大気を貫いて地表まで届くのですが、X 線は大気にほとんど吸収されてしまいます。そのため、宇宙から来る X 線を観測しようとすると、大気のない宇宙に観測機器を設置するしか方法がないのです。

ダークマターの存在の証拠?

そして、これまでの X 線観測衛星が、実はダークマターの存在の証拠を見つけていたのではないかと近年ささやかれるようになっていました。

2014 年、マサチューセッツ工科大学の研究者のグループによって、ヨーロッパの X 線観測衛星「XMM-Newton」が観測した 73 個の銀河団のデータを精査したところ、3.5 キロ電子ボルトの波長にこれまでの理論では説明のつかない強い X 線が観測されたという報告がありました。

また、別の報告には NASA の X 線観測衛星「チャンドラ」のデータからも、ペルセウス座銀河団からの同じ波長に予想の 30 倍も強い X 線が検出されたとも報告されています。

研究者たちは銀河団という非常に巨大な質量が集まる領域から発せられるこの X 線が、ダークマターに由来するものではないかと考えました。そして、3.5 キロ電子ボルトというエネルギーは、ダークマターの正体の候補の一つとされるステライル・ニュートリノが崩壊したときのエネルギーではないかと主張したのです。

ただ、あるグループが「XMM ニュートン」や「チャンドラ」やさらには日本の「すざく」のデータを用いて、3.5 キロ電子ボルトに強い X 線を見つけたと報告している一方で、別のグループは同じ観測衛星を用いて検出できていません。

ひとみの自壊

そこでこの議論に終止符を打つと期待されていたのが「ひとみ」です。

「ひとみ」は従来の X 線観測衛星より何十倍も高い分解能の軟 X 線分光検出装置「SXS」を持っていました。

この SXS を使えば、本当にペルセウス座銀河団から 3.5 キロ電子ボルトの波長の X 線が飛んできているか議論に決着が付けられるはずだったのです。

しかし、そんな科学者たちの期待を背負って 2016 年 2 月 12 日に種子島宇宙センターから打ち上げられた「ひとみ」でしたが、 ろくな観測ができないうちに自壊してしまいました。打ち上げられた「ひとみ」は、ならし運転の最中の 3 月 25 日に姿勢制御ミスによりコマのように猛烈に回転してしまい、遠心力で 11 個の破片に分解してしまったのでした……

「ひとみ」が最後に見たモノ

「ひとみ」が自壊した段階では軟 X 線分校検出器 SXS にはカバーがかかったままで、大半の X 線はカバーに吸収されてしまい、観測機としての本領は発揮できない状況でした。

ただ、それでも X 線の全てが吸収されたというわけではなく、一部の X 線は観測できていました。その結果を解析すると、

「いくらなんでもペルセウス座銀河団から 30 倍も強い X 線は飛んできてない」

という結果が得られました。つまりペルセウス座銀河団の方向にステライルニュートリノがいたという証拠、ひいてはダークマターを観測したという証拠はなかったことにされたわけです。

それでは、以前に科学者が検出していた X 線は何だったのか、というのが自然な疑問として出てきますが、それは残念ながらナゾのままです。

個人的な印象としては、銀河団の方向からナゾの X 線が飛来してきているとしても、それが一足飛びにダークマターに由来するという結論に持って行くのはどうかなと思います。どこかの星々が偶然加速器のようになっていて強い X 線をだしているとか、そういう既存の物理で説明できるものかもしれませんし、それなら時間的に強弱ができるのも別に不思議はありません。

まとめ

なにはともあれ、今度こそ議論に決着を付けるため、JAXA は「ひとみ」の再打ち上げを目指しているらしく、NASA に軟 X 線分孔観測機 SXS のスペアの作製を依頼しているそうです。なんでもこれだけで 7,000 万ドルから 8,000 万ドル (だいたい100 億円ぐらい) かかるらしく、製作期間も長くて完成までに 2021 年ぐらいまでかかると報道されています。

「ひとみ」をもう一回打ち上げるというのもなかなか簡単ではなさそうです。

ダークマターの正体が判明するにしても否定されるにしても、なんにせよ順調に「ひとみ」2号機が打ち上がるといいですね。

参考

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