クロマグロの国際会議で日本は少子化と同じ轍を踏もうとしている

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太平洋クロマグロの漁業管理を行っている WCPFC (中西部太平洋まぐろ類委員会) の第 13 回年次会合の議事録を読んでいたら、ある漁業機関が日本が中心となっている北小委員会の資源量予測に対してこんな指摘をしていました。

「北小委員会の予測には、現状の歴史的に低い太平洋クロマグロの加入量が続いたり、さらには減少したりするシナリオが含まれていない。最も悲観的なシナリオでも、最低を記録した最近の加入量よりかは大きいだろうと予測しているが、われわれとしては納得できない」

加入量というのは、稚魚が成長したり他から移動してきたりして、どれくらい魚の数が増えるかという量です。人口でいえば、子供を産んだり移民で入国したりを合わせた、日本人口の増加数に対応するのが加入量です。

上の漁業機関の指摘は、つまり人口予測において、過去最低を記録した出生率がこれ以上下がるシナリオは検討していない、ということになります。あれ、なんかどっかで聞いたことのある話ですね。

出生率の予測の歴史

出生率の予測の歴史というのは、外しまくった歴史と言って過言ではありません。以下のグラフは国立社会保障・人口問題研究所の出生率の予測が 5 年ごとにどのように変化したかを示したグラフです

第 12 回社会保障審議会人口部会資料より出生率予測の推移。

第 12 回社会保障審議会人口部会資料より、出生率予測の推移。発表するたびに出生率が下方修正されている。

5 年ごとの出生率推計の発表のたびに、毎度毎度懲りずに下方修正して、結局 1985 年の 2.0 から、20 年後には 2005 年の発表では 1.3 以下まで予想を修正しています。

この出生率予測の下方修正の言い訳の集大成が、国立社会保障・人口問題研究所が提出した第 12 回社会保障審議会人口部会の資料にあります。いわく、

  • 出産年齢が上がったのが想定外だった
  • 結婚しない人が増えたことが想定外だった
  • 夫婦の出産する子供の数が減ったことが想定外だった
  • 30 歳以上の夫婦が思ったより産んでくれなかったのが想定外だった
  • 離婚件数が増えたのが想定外だった

まあどう言い訳しようと、国立社会保障・人口問題研究所はその時々の科学的な知見を総動員して、予測を外しに外してしまったわけです。

人口の予測能力についていうなら、彼らを無能としか形容できません。そして、この予測に乗っかって社会保障制度が設計され、少子化対策が 20 年は遅れてしまったことを思えば、この無能っぷりが日本の社会保障制度を破たんに追い込んだとさえ言えます。

本来ならば第 2 次ベビーブームが終わった 1980 年代には少子化対策を打ち出すべきでしたが、もうその機会は永遠に失われてしまいました。日本は、少なくとも今後数十年間にわたって、バランスの崩れきった人口ピラミッドと格闘することを運命づけられています。

太平洋クロマグロの加入量予測

さて、冒頭で述べたように、WCPFC の年次会合では、太平洋諸島フォーラム漁業機関から加入量が楽観的すぎるのではないかとの指摘を受けています。

過去の加入量

この加入量予測については、第 12 回北小委員会のページに資料があります。

まず、太平洋クロマグロの過去の加入量は以下のグラフのようになっています。

第 12 回北小委員会資料より ISC による太平洋クロマグロ加入予測。

第 12 回北小委員会資料より。 ISC による太平洋クロマグロの過去の加入量の推定。点線は 90 % 信頼区間。

なかなか難しいですが、太平洋クロマグロの加入量は 1990 年代にいったん回復を見せたものの、2000 年代以降漸減していると読めそうです。

加入量の予測

そして、この過去の加入量を踏まえて、将来の加入量がどうなるか予測したのが以下のグラフです。

第 12 回北小委員会資料より。 ISC による太平洋クロマグロ加入量予測。

第 12 回北小委員会資料より。 ISC による太平洋クロマグロ加入量予測。

最悪のシナリオが緑の実線で表されていて、2014 年の加入量の推定より何割かすぐに増加して、そこでそのまま一定の加入量が維持されるというものです。もっとありそうな推計としているのが黒い実線で、20 年間で 2014 年の数倍まで加入量が増加するとしています。

つまり基本的には加入量は回復基調であり、最悪のシナリオでも加入量は 2014 年から加入量は減少しないとしているわけですね。

これがただの予測なら外れても気にしませんが、この予測は太平洋クロマグロの漁獲量を決める議論で使われる「科学」的な基礎データです。

日本の出生率の予測の推移がどうなったかを知っている身としては、太平洋クロマグロをこれからも食べ続けることができるのか、心配でなりませんね。

WCPFC での議論

WCPFC でも、日本が中心となっている ISC の「科学」的な結論に、EU から物言いがつきました。

「EU としては ISC の分析の正しさについて疑問を差し挟むつもりはないが、ただ彼らのやり方はわれわれのやり方と違うようだ。同じ資源量でも、資源管理に関する勧告が ISC からのものと IATTC からのものでは異なっている。ここで IATTC は ISC からの勧告にはない、太平洋クロマグロの成魚の漁獲に制限を追加することを勧告する」

IATTC は東太平洋でまぐろ類の資源管理を行っている委員会です。ISC もバカにされているだけではありません。副委員長の中塚周哉が答弁に立ちます。

「組織構造は科学的な結論を変えたりはしない。重要なのは資源量ではなく加入量だ。現在の太平洋クロマグロの資源量は確かに低いが、最新の情報によれば加入量は増加している」

「委員会の同意があるなら、より高い資源量、より短い資源回復期間を目標に据えることに同意することもやぶさかではない。ただ言っておきたいのは、現状の管理方法でも現在の暫定目標を達成することは十分可能であるということである」

まとめ

WCPFC では太平洋クロマグロに対して、追加的な資源管理を行わない日本に対して、EU を始めとする各国との軋轢が顕在化しました。

何年か前に「想定外」という単語を耳にタコができるほど聞かされた身としては、自分の考え得る悲観的なシナリオを、さらに 2 倍ぐらい悲観的にしておいた方が、後々恥をかかなくて済むのではないかなと老婆心ながら思う今日この頃です。

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参考

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