Lancet の論文は糖質制限が寿命を伸ばすとは主張していない

最近、東洋経済と毎日新聞で炭水化物を過剰に摂取すると寿命が短くなるという記事が掲載されました。

いずれも、江部康二・高雄病院理事長が The Lancet (ランセット) という論文誌に掲載された論文を元に、全カロリーにおける炭水化物の摂取割合 12 % にする「スーパー糖質制限食」を推奨しています。

このランセットの論文では高収入な国から低収入な国まで、世界 18 ヶ国を対象にした調査で、摂取カロリーにおける炭水化物の割合が低ければ低いほど、脂肪の割合が高ければ高いほど、死亡率が低くなるというものです。

なるほど、これだけ聞くと納得してしまいそうですが、しかし、ランセットの論文では明確に「炭水化物の摂取割合を低くしすぎることを支持するものではない」「一定量の炭水化物は、運動時の短期間のエネルギー需要を満たすのに必要であり、ほどよい摂取 (たとえばエネルギーの 50 から 55%) は炭水化物の高すぎる摂取や低すぎる摂取にくらべて適切であろう」と明記されています。

ランセットの論文を基にしながら、ランセットの論文の推奨を無視するという離れ業は、一般的には我田引水と呼ぶと思います。

今回の研究は、そもそも肉類やバターなどは高くて買えず、白米しか食べることができない低収入な国々を含めた中で、炭水化物のカロリー割合が高い人は死亡率が高いという調査結果をまとめたものです。

そのためおそらく正しい解釈は「長生きしたければ肉とか脂肪が食べられるくらい金持ちになれ」ということだと思われます。

英国の NHS (National Heath Services: 国民保健サービス) のこの論文に対してのコメントを出していて、わかりやすかったので紹介します。


世界の脂肪と炭水化物の研究は英国とはそこまで関連がない

2017 年 8 月 30 日 (水)

「低脂肪食の摂取が『寿命を短くするリスクを 25 % 増加させる』」というサン紙のレポートは刺激的だが、いささかミスリードである。この研究の主張は、主に低所得から中所得の国々を対象としており、それらの国々と英国とでは食事内容が大きく異なる。そのため、この研究結果は英国にそのまま関連付けられるわけではない。

従来の飽和脂肪酸の摂り過ぎた場合の心疾患や早期死亡との関係に関する多数の調査は、英国や米国などの、心疾患の罹患率や飽和脂肪酸の消費が両方とも比較的高い高所得の国々を対象としていた。そのため、これらの研究から導かれる「人々は高脂肪食を避けるべきだ」という勧告は、バングラデシュやジンバブエのような肥満よりも十分に食事をとれるかどうかが問題になる国々では余り意味がなくなってしまっていたのである。今回の研究が低所得から中所得の国々を対象にしたのは、この問題を解決するためである。

今回の最新の研究結果は、全カロリーのうち 4 分の 3 以上を炭水化物から摂取する人々は、全カロリーの半分を炭水化物から摂取する人々よりも死亡リスクが 28 % 高くなるというものである。

しかし、低所得や中所得の国々では白米のような精製された炭水化物により依存している。これらに比べると精製されていない玄米や全粒粉パンの方が健康的であり、英国ではより容易に入手できる。

論文の著者の研究者は、自分たちの研究結果から、世界の食事のガイドラインは変更されるべきだと主張している。しかし、勧告の「全エネルギーのうち 50% から 55 % を炭水化物で、約 35 パーセントを脂肪で摂取すべきだ」というのは既存の英国の食事のガイドラインの範囲内である。

「脂肪か炭水化物か」の議論は、間違いなく副次的な問題である。真実は、英国の肥満統計を基準にすれば、われわれの多くは単純に食べ過ぎである。

どこからこの話は来たのか?

この論文の研究は世界 18 の国々の大学と研究機関の研究者によって行われた。18 の国々は、高収入な国々としてスイス、スウェーデン、アラブ首長国連邦、中収入の国々としてアルゼンチン、ブラジル、中国、チリ、コロンビア、イラン、マレーシア、パレスチナ自治区、そして低収入な国々としてバングラデシュ、インド、パキスタン、ジンバブエで構成されている。

この研究は多数の自治体と国の組織、およびいくつかの製薬会社によって資金が提供された。そして、研究結果はスペインのバルセロナで行われた European Society of Cardiology Congress で発表され、査読付きの医学雑誌である The Lancet に掲載された。

英国のメディアにおけるこの研究の報告は概して貧弱である。この研究と英国の関連性は限定的であることを明確に報じているメディアはなかった。たとえばサン紙は「バターやチーズや肉類を切り捨てることは、早期死亡のリスクを上昇させる」と報告している。しかし、研究対象の国々であるインドなどでは人々はチーズや肉を「切り捨て」たりはしないだろう。むしろ、チーズや肉を食べるだけの生活の余裕がないいと考えられるし、あるいは彼らの伝統的な食事は多量の肉や乳製品をそもそも含んでいない。

インディペンデント紙は「あらゆる脂肪を多量に摂取することで早期死亡のリスクを 23 % 減少させる」と主張している。しかし、この研究報告は「多量」を全摂取カロリーの約 35 % としており、この数値は英国における平均的な水準である。

これはどんな研究なのか?

これは人口をベースとしたコホート研究で、 18 の国の 35 歳から 70 歳までの成人を対象とした食事の頻度に関するアンケートを用いた調査である。研究者は、食事のにおける脂肪、タンパク質、炭水化物のバランスとあらゆる死亡リスクや心筋梗塞や心臓発作や心不全などの心疾患との関連を調査することを目的としている。

コホート研究は、他の全ての観察研究と同様に、交絡因子によって影響を受けることがある。これはある因子 (食事) がもう一方の因子 (死亡あるいは心疾患) と直接関係があるかは、かならずしも確実ではないことを意味する。

誰がこの研究に参加しているのか?

研究者は 18 の国々 (高収入の 3 ヶ国、中収入の 11 ヶ国、定収入の 4 ヶ国) で成人を募集し、彼らの食事内容についてアンケートに回答を記入してもらい、その内容について健康とライフスタイルの要因の観点で分析を行った。

そして、3 年後、6 年後とコンタクトが可能だった場合は 9 年後にフォローアップ調査を行い、アンケートに回答してもらった人に何が起こったのかを調べた。彼らは各栄養素の消費が多い順に「クインタイル (5 分の 1)」にグループ分けされた。

交絡因子の調整後、研究者は食事と死亡率や心疾患の関連性について調査を行った。

研究者は 148,723 名の被試験者を集め、心疾患の履歴が得られなかった者や食事の内容についてのアンケートについて不適切な回答をした者のデータを除去して、135,335 名分の回答が残った。

アンケートは実施した国や地方に適合するするように設計されおり、食物 (ポテト、バター) を食物タイプ (炭水化物、飽和脂肪酸) に変換する方法で、違いを吸収している。

研究者はこれらの数字を以下の要因で調整している。

  • 年齢
  • 性別
  • 教育レベル
  • 喫煙の習慣
  • 運動
  • ウエスト・ヒップ比

研究者はさらに被試験者が糖尿病に罹患していないか、都市に在住か田舎に在住か、総摂取カロリー量についても調べている。

他の国々と比較して炭水化物をより多く摂取するアジアの国々は、他の地域と結果が共通なのか独立した分析も行われた。

基本的な結果はどうだったのか?

135,335 名の被被験者のうち、1,649 名が心疾患で死亡し、3,809 名がその他の原因で死亡した。

研究者は最も炭水化物を摂取したグループ (全カロリーのうち平均 77.2 %) と最も摂取しなかったグループ (全カロリーのうち平均 46.4 %) を比較した。その結果、

  • 炭水化物を最も摂取したグループは最も摂取しなかったグループに比べて、死亡リスクが 28% 上昇した (ハザード比 1.28、95% 信頼区間 1.12-1.46)
  • 主な心疾患に関連するリスクに違いは見られなかった (ハザード比 1.01、95% 信頼区間 0.88 – 1.15)

さらに研究者は最も脂肪を摂取したグループ (35.3%) と最も摂取しなかったグループ (10.6%) を比較した。その結果、

  • 脂肪を最も摂取したグループは最も摂取しなかったグループに比べて、 死亡リスクが 23 % 減少した (ハザード比 0.77、95% 信頼区間 0.67-0.87)
  • 主な心疾患に関連するリスクに違いは見られなかった (ハザード比 0.95、95% 信頼区間 0.83 – 1.08)

異なるタイプの脂肪についても調べたが、飽和でも多価不飽和でも一価不飽和でも、すべてのタイプの脂肪で同様のパターンだった。しかし、結果をグラフにプロットしてみると直線上には乗らず、脂肪を摂取しすぎても摂取しなさすぎても問題になることが示唆された。

研究者はどのようにこの結果を解釈したか

この論文の研究者は「高い炭水化物の摂取率 (エネルギーの約 60 % 以上) は全死亡率と心疾患以外での死亡率の悪影響と関連付けられる。一方で高い脂肪の摂取率は全死亡のリスクの減少と関連付けられる」と主張している。

そして「高い炭水化物の摂取をしている個人は、炭水化物を減らして脂肪を取ることことのが、よりよいかもしれない」と付け加えている。

しかしながら、この研究者は「非常に炭水化物の割合が少ない食事を支持している訳ではない」と注意している。「一定量の炭水化物は、運動時の短期間のエネルギー需要を満たすのに必要であり、ほどよい摂取 (たとえばエネルギーの 50 から 55%) は炭水化物の高すぎる摂取や低すぎる摂取にくらべて適切であろう」。

結論

メディアは、この研究者たちが現在の食事のガイドラインを完全にひっくり返したかのように研究結果を紹介した。少なくとも英国では、これは完全にミスリードである。英国のガイドライン、Public Health England によって長生きのために推奨されている全カロリーの約 50% を炭水化物から、約 35% を脂肪から摂取することを、この研究は支持している。

また、この研究には限界がある。とりわけ観察研究は原因と結果を証明できない。

たとえば、実験の参加者の一部に見られた非常に少ない脂肪と高い炭水化物の食事は、単純に貧困を表しているかもしれない。米、小麦、砂糖はバターや肉などの動物性の製品に比べて非常にやすくなる傾向がある。白米のような栄養に乏しい食事でエネルギーを補充している人々の寿命が短くなることは驚くべきことではない。しかしながら、英国に一般的にあてはめることはできない。

この論文の研究者は、国際的な調査結果から、特に栄養が不足していることが肥満よりも問題である地域では、食事に関する世界的なガイドラインに変更が必要であると主張することはできるであろう。しかしながら、英国のガイドラインはすでにその主張の範囲内に収まっている。

健康的な食事に関する情報についてより知りたい人は Eatwell Guide も参考にするとよい。

翻訳元

参考文献

自己啓発の時間が労働時間なのは昔から

厚生労働省が自己啓発をした時間も労働時間として扱うことなどを求めた指針を作成したといニュースが日経新聞に掲載されました。

なんでも業務に必要な資格取得の勉強や語学力向上の学習など自己啓発をした時間について、そうした状況に追い込まれる上司からの暗黙の指示があれば労働時間に当たるとしています。

またこの他にも、制服や作業着に着替える時間、業務終了後の清掃、待機時間、研修や教育訓練の受講なども、労働時間に含めるのだそうな。

このニュースに対して、「社会が非常に良い方向に動いている」とか、「厚生労働省頑張っている」とかそういう好意的な反応が多いようです。

ただ個人的には、これってただの現状の追認で、特に厚生労働省が何かを変えたとかそういうところはないのではと感じています。 続きを読む

自壊したX線天文衛星ひとみはダークマターの存在の証拠を否定していた

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JAXAウェブサイトよりX線観測衛星「ひとみ」

JAXAウェブサイトよりX線観測衛星「ひとみ」

その「ひとみ」ですが、打ち上げてからすぐの、ならし運転のうちに壊れてしまったので、特に科学的な成果を残してないと思われていそうです。

でも、実は結構スゴい成果を上げています。なんと「ひとみ」はダークマターの存在の証拠を否定していたのというのです。

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豊洲市場へ移転すれば年100億、移転しなければ3,700億の赤字

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この赤字の中身はというと主に「減価償却費」だそうです。

この膨大な赤字額を聞いて、豊洲市場への移転に対して疑問を投げかけている人たちがたくさんいます。

ただ、一方で実は豊洲市場に移転しなければ、3,700 億円の赤字が発生し、中央卸売市場の資金計画が破たんすることは、あまり知られていないようです。

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映画「沈黙-サイレンス-」パンフレット表紙。

映画「沈黙-サイレンス-」のパンフレット表紙。

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「北小委員会の予測には、現状の歴史的に低い太平洋クロマグロの加入量が続いたり、さらには減少したりするシナリオが含まれていない。最も悲観的なシナリオでも、最低を記録した最近の加入量よりかは大きいだろうと予測しているが、われわれとしては納得できない」

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